「ユーザー目線で作りました」。
そう書かれた商品やコンテンツは多々あります。しかし、実際にユーザーの心をつかんでいるものはどれくらいあるでしょうか。
私は20年にわたり、ラジオ番組制作やモバイルゲーム企画の現場で、エンドユーザーの反応と真正面から向き合ってきました。また、出産後10年以上、家事や育児を中心的に担っています。地域の中で試行錯誤しながら生活を営み、同じ生活者の「リアルな声」に日々アンテナを立てています。
こうして培った「ユーザー目線」は、単なる「好みを聞く」ことではなく、「相手の状況・文脈・行動制約まで想像し、その上で最適な形に落とし込む力」そのものです。
というわけで、私が考える「ユーザー目線とは何か」を、これまでの経験とともにお話しします。
1.「ユーザー目線」とは何か
一般的には「利用者や顧客の立場に立って考えること」と定義されます。けれど現場で実感するのは、それだけでは不十分だということです。
真のユーザー目線を持つには、
この3つの要素が欠かせません。
2.ラジオ局で学んだ「スタジオの外には見えないけれど確実に一人ひとりの生活がある」事実
新卒で入社したのはラジオ局でした。顔が見えない相手に向けて番組を企画し、パーソナリティやスタッフと一緒に「声」および「音」で、「リスナーの日々の生活の支えとなる世界観」を形にしていく日々でした。
数字だけでなく「気分の流れ」を読む
リスナーからの反応は、当時はメールやFAX、ハガキ、番組企画によっては生放送中の電話ということもありました。そして投稿してくれるリスナーの向こう側には、その何倍もの、無数の「聴きリス」がいます。私もラジオ局に就職するまでは、そちら側の人間でした。
クライアント(≒番組予算)が付き、番組を継続させていくには、聴取率ももちろん大事でしたが、数字では測れない、リスナーの「気分の流れ」や「生活の中のちょっとした変化」を感じ取るのが重要でした。
変わらぬ声で安心を届ける現場力
例えば、災害や何か衝撃的な事件が起こったとき、人は誰でも不安になります。それでも、ラジオ番組の裏方あるいは責任者として、「パーソナリティーがいつも変わらない声で、予定通りの進行の中にも最新情報や安全情報をまじえ、煽らず・茶化さずメッセージを届けつづける日々」を支えていました。
広告原稿をリライトするだけでも価値は高まる
また、毎回広告会社から搬入される生CM原稿の多くには、番組カラーやパーソナリティーの性格、リスナー層が考慮されていません。外部制作会社スタッフだと、トラブル防止のため広告原稿に手を入れるのを嫌いますが、私は局の人間だったので、そのあたりを重点的に、わりと容赦なくリライトしました。
現場をよく知る人が、恐れずリライトしてここに少しのアレンジを加えるだけで、CMタイムへの関心はもっと惹きつけられる。数字的にすぐに見えるものではないのですが、ここにこだわって毎回20枚近い番組用原稿を制作していました。私が立ち上げた番組は、しゃべり手やスタッフが変わっても継続しており、現在では放送開始20年に向かっています。
この経験は、Webコンテンツでも生きています。画面の向こうにいる人の生活状況を思い描くことで、文章の長さや言葉選び、画像の見せ方まで変わってきます。
3.ゲーム会社で鍛えられた「ユーザー体験を設計する」という思想
次に身を置いたのはモバイルゲームの企画現場でした。スマートフォンが普及し始めた頃から、10本以上のタイトルの開発・運営に関わりました。
ユーザー行動と信頼を、徹底的に数字からとらえる仕組み
ユーザーは全国、あるいはタイトルによっては世界各地に存在し、年齢も性別もさまざま。ラジオと比べると、あらゆる分岐点で圧倒的に「データ」を重視する業界でした。
UU(登録やDLしたユニークユーザー数)やDAU/MAU(1日あるいは1カ月にログインするユーザー数)、課金・離脱のタイミング、SNSでの反応…これらのデータをもとに、ゲーム内イベントの調整やUIの改善を繰り返しました。
アクションRPGでは、武器防具やスキルなど「性能の数字」が肝でした。ここを間違えると、単なる誤字でなく「バグ」扱いとなり、課金機会の喪失であると同時に、ユーザー離れの原因となってしまいます。
大型アップデート日にはユーザーのSNS投稿をリアルタイムでチェックする仕組みがあり、「バグ報告がないかどうか」を開発チーム全体で見守るのが常でした(見つかった場合、即座にデータを修正しアナウンスしました)。
ターゲットによって変わる体験設計
一方で、世界的に有名なキャラクタをモチーフとしたパズルゲームのメインターゲットは、一般的なゲームユーザーと異なる、ミドル~シニア世代を含む女性。あるとき、「コンテニュー」という、ゲーム開発者が当たり前に使うことばが意図通り理解されていないのでは、と思われる傾向を数字が示したことがあります。これにはチーム全員が驚きました。
しかし、アップデート直後からバグ発見に躍起になるコア層も、コンティニューの意味が伝わらないライト層も、どちらも確かに大事な顧客であることに変わりはなく。それぞれの理解度・期待度やライフスタイルに合わせた体験設計が必要です。
仮想アイテムに込められた「気分のデザイン」
また、基本的に無料プレイのアプリゲームにおいて、ゲーム内コンテンツの商品設計や販売方法の開発こそが、プランナーの最大のミッションでもありました。
商品は、武器や防具など現実には存在しない、あくまでも仮想アイテムです。単に「アバターキャラが装着するとがカッコいい」というだけでなく、「それを入手すると、どんな気分になれるのか?」「仮想世界に存在する他のユーザーたちに、どんな自分を印象づけられるのか?」を何度も自問自答し、コピーやスペックのテキストを作成していました。
この「体験を設計する視点」は、Webサイトや記事制作にも直結します。単に読みやすいだけでなく、「次のページも見たい」「明日もログインしないと損かも」と思ってもらう仕掛けが重要なのです。
4.家族を持って一気に広がった、リアルな「生活者目線」
ライターとして独立する前に2人の子が生まれ、私は10年以上、家事・育児にメインで関わってきました。
行政サービスと企業サービスの設計思想の違い
しゅふが主戦場とする学校や病院、自治体(役所)、地域などには「会社に通勤して仕事だけしていればよかった頃」とは全く異なる世界がありました。
地域で健やかに生きるのに不可欠なサービスであるにもかかわらず、民間企業が提供するサービスの世界とは、設計思想がかなり違うのです。行政でしか使わない用語、わかりにくい案内…。
「ふりだしに戻る」ような不便な体験
あるとき、育児での困りごとを解決したいのに、役所に相談すると病院に誘導され、病院では長期にわたって待たされました。ようやく検査を受けられたと思ったら、また役所へ行かなければならない。「気がつけばふりだしに戻っている」ような感覚。こうした不便は、年々少しずつ改善されてはいるものの、日夜「不便の解消」を命題にしていたゲーム会社との温度差が衝撃的でした。
この期間で得たのは、そのような気づきにもとづいた、生活者としてのリアルな購買・利用体験です。
日々の意思決定に影響する「生活者の判断軸」
こうした日々の意思決定の軸は、BtoCの商品やサービス企画に直結する知見です。
机上のペルソナ設定では気づけない「買わない理由」「使い続ける理由」を肌で理解しているのは、生活者としての蓄積があるからです。
5.ユキッ先生流「ユーザー目線」の3つの軸
ここまでの経験を通じて、私が大切にしているのは次の3つです。
①想像力の解像度
生活シーンや心理状態(不安や課題感、違和感、ちょっとした疑問など)を明快に言語化して提示することにより、相手の行動や気持ちを追体験する。
②生活者経験のフィルター
ユーザーの声やデータを、自分の生活感覚・他者との会話などによる実体験をリソースに、分かりやすく翻訳する。
③リアルデータ・ファクトとの照合
数字や反応、論文や行政の発信情報など、信頼のおけるファクトを照らし合わせ、想像と現実のズレを補正する。
この3つを組み合わせることで、机上の空論ではない、本当に届く文章や企画が生まれます。
6.依頼することで企業が得られるメリット
私が提供する「ユーザー目線」は、単なる言葉選びの工夫ではありません。
(1) コンバージョン率向上につながる、ターゲットに「届く表現」
(2) 開発や企画の初期段階から「生活者テスト」ができる視点
(3) データや客観的ファクトと、生活者感覚の両面からの改善提案
特に、社内に生活者としての多様な視点を持つ人材が少ない場合、このアプローチは企画の盲点を埋める力になれると信じております。
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「ユーザー目線」とは、相手の生活を想像し、事実で裏付け、日常感覚で翻訳すること。
ラジオのスタジオにいながらスタジオ外のあらゆる生活に思いを馳せる想像力、ゲーム会社での体験設計力、そして主婦としての生活者感覚。この3つのフィールドで培った視点は、あなたのビジネスにもきっと役立ちます。
もし「もっとユーザーの行動を引き出す企画や文章をつくりたい」とお考えなら、ぜひお気軽にご相談ください。